7月5日発売の『敗者たちのツール・ド・フランス ~ランタン・ルージュ~』の制作のお手伝いをいたしました。タイトルの通り、ツール・ド・フランスの最下位完走者のお話であります。原書名は単なる「ランタン・ルージュ」です。ロードレース好きならツールの完走者は敗者ではないとこだわるところかもしれませんが、まあ一般書ということで:) 著者はRaphaのウェブサイトにも寄稿なさっているマックス・レオナルドさんです。
自分が担当したのは、表記統一や出来事などのファクトチェックがメインです。具体的にいうと選手名とか地名、チーム名、その当時の出来事などの確認です。お話をいただいたときには内校が終わった初校段階で、時間も限られていたため、いくつか確認盛れがあったらごめんなさい、という感じです。
また、訳注が必要かといった確認もいたしました。初心者が置いてけぼりにならないくらいのチューニングというか、そういう編集者目線での作業ですね──とはいえ、もともとマニアックな内容なので噛み砕きすぎると、原書の持つエッジがなくなってしまうので、好奇心の旺盛な初心者なら付いてこられるレベルの歯ごたえは残しております。
表記に関しては、多言語が混在する多国籍スポーツなので訳者さんも苦労なさったと思います。 人物や固有名詞は母国の原音表記に修正しております。表記がブレそうなものについては、シクロワイアードやJsports準拠としております。少なくともカンチェラーラがカンセララとなるといった事態にはなっておりません :)
それと、敢えて表記がブレているものがあります。本書のなかでは英米の人名でDavidさんが3名ほど登場します。デーヴィッド・ミラーとデーヴィッド・ザブリスキーとデヴィッド・ボウイです。ミラーにせよザブにせよ、音引きは入れておきたい。だからといって、デヴィッド・ボウイに音引きを入れるのは違うしなあ──デヴィッド・ボウイは商標登録みたいなものだから、イレギュラー扱いにしてもいいだろうと判断してワガママを通したいとお願いしました。
さて、さらに個人的なはなしをしておきます。実は本書は今年の年頭に〝リーディング〟のオファーがありました。〝リーディング〟というのは訳書を出版するまえに、原書を読んで、その内容と魅力をコンパクトにまとめたレジュメを出版社に提出するお仕事です。出版社は、そのレジュメをもとに出版するかどうかを決めるのです。オファーをいただいたときはすでにスケジュールがタイトで、体調も絶不調でした。どうやっても原書を読んでまとめるという時間が捻出ができなかったため、残念ながらお断りをせざるを得ませんでした。
しばらくたってから、ジロ・デ・イタリアをのほほんと見ているときに、内校後からの表記統一などで手伝ってもらえないかと声をかけていただたわけです。届いた内校を読んでみると、なんともおもしろい内容でした。著者個人のエタップでの挫折(ヴィノクロフか落車し、フーガーランドがメディアカーに轢かれて、例のステージと同じ過酷なコースです)をきっかけにして、ツール・ド・フランスを最下位で完走する走者へ思いを馳せ、変わった視点でツールの歴史が紐解かれていきます。
ロードレースを楽しんでいるひとなら理解できると思うのですが、本書に登場する面々がピュアな心を持つ嘘つきばかりで、人間くさくてたまらんのです。レース中に飲酒した話、あえて走るのを止めて最下位を狙った話、総合敢闘賞を獲得したため総合最下位ながらパリで表彰台にのぼるジャッキー・デュランの話など、もうたまらんかったですね。描かれている過去・現在の話、そしてレース内外の出来事もなんとも泥臭く、嘘くさく、とても人間くさいのです。自転車競技はソーシャルスポーツだといわれますが、それを再認識する本でありました。一度は縁が切れたと思っていた本でしたが、少しでも関わることができて良かったです。
機会があれば、ぜひご一読ください。
関連URL
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- 敗者たちのツール・ド・フランス ~ランタン・ルージュ~[辰巳出版]